・2015年(平成27年)自然農37年目の稲づくり

 水持ちのよい平坦地、沼地で水を入れ続けると、夏の高温、水田内の水温の高温から、水中に生きる微生物の営み盛んとなって、亡骸の分解が急速に進み、養分過多となって、稲の根(太い直根、細い毛根共に)を損ねることになり、生育障害を招き、分けつが成されなくなります。

 ゆえに水を畝上までれないようにすると、モグラ、野ネズミの害を受けることになった昨年までの経験から、今年の取り組みを紹介致します。

苗床作り

 苗床は、腐植土約12センチの層は、養分過多で発芽した幼い芽を損ねるゆえに、両側に平鍬で削り除く。下の耕作土にも、草々や稲、麦の根が張って年々朽ちているゆえ、それなりの豊かさがあり、硬く固まることなく、やわらかい良き状態になっているので、発芽後少しの補いで良い。

 

【苗床期】

 苗は丈夫な苗に育つよう、水を入れない畑状で育てる。2か月間の苗床で初期と中期に、2度除草する。後半に生えてくる小さな草は、そのままで大丈夫。

苗床の様子(2015/5/24)
苗床の様子(2015/5/24)

 初期(5センチ位育った頃)の除草後、2~3日してから、米糠とナタネ粕を等分に混ぜたものを、籾種1合に対して同量の1合位上から均一にふりまいて、やわらかな草先で払い落としておく。露のあるときは、茎葉を損ねるゆえ、この作業はしないこと。

 

【田植え】

 2か月後の田植え時には、苗は2~3本に分けつを始めており、茎も丈夫に育っている。梅雨に入った6月20日から田植えを始め、23日に植え終えました。

田植え(2015/6/23)
田植え(2015/6/23)

 条間50センチ、株間は晩生種50センチ、中生種45センチ、早生種40センチで、いずれも一本植え。亡骸の層が耕作土の上に12センチ位堆積されて、豊穣の水田となっているゆえに、株間にゆとりを持つ。一本一本の空間を広くとり、ゆったりと育つように配慮する。

 

田植え直後(2015/6/23)
田植え直後(2015/6/23)

 田植え時、水は畝上2センチ位乗るように、灌水する。

 亡骸の層は12センチ位で、その上に冬期の草が未だ生きているものや老いて死に近づいているもの等、多く横たわっている。上から10センチ程の厚さを、ノコガマで×印に植え穴分のみ切り、両手で広げる。さらに腐植が十分でない姿形のある亡骸をも広げ、完全に腐植している層に4センチ位の植穴をあけて、3センチ位の土のついた苗を植え、植穴の分除けていた腐植土を株元に戻しておく。

 この際、宿根草で多年草の草(特に、ツル性でツルを伸ばして地についた部分に根をさして増えていく性質の草)の大きくなっている株が植穴にあれば、ノコガマで縦横に切って取り出し、やがて朽ちるようにと、近くに放置しておく。水田の外には出さない。再び根をさして生きてゆくものあるが、任せる。

 苗床から、約3センチの土をつけて堀り上げた苗を、一本一本丁寧に植えていく。よく張っている根をどうしても切ってしまって残念ですが、できる限り多くの根を残して移植する。植え痛みのせぬように最大限注意しながらの田植え作業です。例えば、苗床から取り出した苗は、即植えていく。根を圧迫しない様に取り扱う。

 

 常に稲のいのちを、成長を損ねないように稲の立場に立って、作業にも見回りにも臨む。今年の基本の心として答えを探しながら、水田に立ち、向かいました。

 

【田植え後の水管理】

 水は、田植え後も畝上2センチ位を目途に保ち続ける方法をとり、急速に草々や小動物の亡骸や排泄物が朽ちることによる高濃度の養分の害をさける為に、水の色が赤茶色を帯び腐臭を放ち始める前に、溝の中半分位まで落水をする。一夜明けると、すぐ再び畝上に新たな水を入れる。雨が降っているときは、新たな水が天上からもたらされるので、入れ替えの必要は無い。今年は、この時期雨降りが続いたので、回数は多くなかったが、晴天の日が続くときは、1週間から10日に一度水の入れ替えをしました。

水田の様子(2015/8/23)
水田の様子(2015/8/23)

 我が家の水田は、景行天皇陵の池水を利用していますが、幸いに今年は水が少しずつ水路に流れていましたので、ほぼ思い通りにすることができました。10月に入って晴天が続いたときは、水路の水も流れ来なくなり、水田内は溝にも水が無くなったので、モグラとネズミが中に入って走り回り茎を切って食べるのではないかと案じましたが、すぐには入らず、その内に雨の恵みで再び水が入り、11月初め頃から11月14日に至っては溝の中に水をたたえていました。

 

稲刈り前(2015/11/11)
稲刈り前(2015/11/11)

 【稲刈り】

 早生種の黒米は11月3日に稲刈り、タイの香り米は11月13日に稲刈りをしました。モチの赤米も早生種でしたが、未だ茎葉に緑色を残しており生気もあったので、トヨサト等他の品種と同じく、完熟するまで刈取りを控えました。 

稲刈り(2015/11/29)
稲刈り(2015/11/29)
稲の切り株(2015/11/29)
稲の切り株(2015/11/29)

 例年は11月15日頃にトヨサト(中生種)の稲刈りですが、今年は11月中旬も気温が高く霜も降りなかったため、完熟まで様子をみて、例年より半月ばかり稲刈りを遅らせました。11月20日、稲刈りに備えて落水し、11月25日にトヨサトと赤米(中生種)の稲刈り、11月27~29日に晩生種の稲刈り。いずれも稲木を立て、自然乾燥する。

( 2015/12月 奈良県 川口由一さん投稿) 

稲木を立てる(2015/11/29)
稲木を立てる(2015/11/29)

 

編集記自然農で栽培を重ねられて37年目となる水田の、貴重な体験談をお寄せいただきました。

 川口由一さんの田んぼの体験談につきましては、他のページにも掲載しています。36年目までの取り組みについては、下記のページもご覧ください。

 

・お米の直播きがうまくいかず、育苗して田植え

・地力不足で苗の生長が悪い~肥沃になってくると発芽障害

・畑苗代(岡苗代)を、動物や鳥、虫の被害から守る

・苗床に草が多く生える

・田植え時の植え方の問題

・水田の水管理(水の深さ)について

 

 川口さんの田んぼは、亡骸の層が厚く積み重なっていますが、長く栽培を重ねても亡骸の層ができない田んぼもありますね。多様な田んぼの体験談をお寄せいただきますと、助かります。皆様の参考になりますので、どうかお寄せください。(2016/4/4)

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