・自然農で7~10年目頃におこってきた稲の病気と倒伏について

 今の田んぼをはじめて7~10年目頃から、稲の倒伏と病気が目立つようになってきました。

 その原因について考えられることと、その後の克服しつつある経過の報告です。

【稲の病気と倒伏の様子】

 一昨年、2020年11月18日の稲刈り前の写真です。

倒伏したアケボノ
倒伏したアケボノ
右は緑米(倒伏せず)、中央はアケボノ(倒伏したので4株で束ねて結んだ)、左はトヨサト
右は緑米(倒伏せず)、中央はアケボノ(倒伏したので4株で束ねて結んだ)、左はトヨサト
アケボノ。倒伏したので結んだが、結んだところから折れてしまった。
アケボノ。倒伏したので結んだが、結んだところから折れてしまった。

 田んぼの場所は三重県の中山間地、標高約160メートルの川沿いの土地で、私たちが田んぼにする前は15年以上耕作放棄されており、チガヤ・ススキ・セイタカアワダチソウ等が繁茂していました。年間最高気温は33度、最低気温は-4度くらい。田んぼの耕作土は深さ20センチ程度と浅く、土質は砂っぽく石が多く粘土質は少なく、水は溜まりにくいです。水は沢からホースで引いており、水温は低め、水質は綺麗です。

 

 苗は、自分で育てています。4月の終わりに田んぼの一角に苗床を作り、オケラ対策に少し芽出しをした種籾を降ろしています。苗床の期間は水を入れず、畑苗代です。約2カ月後に田植えをしています。植え方は、条間40センチ、株間30センチで、1~2本ずつ植えています。出穂までに2回ほど条間に入って草を刈り、刈った草はその場に敷いています。水管理は間断潅水で、十分に溜まったら入れるのを止めて、かなり減ったらまた入れるというふうにしています。

 

 最初の5~6年目までは(カメムシの大きな被害に遭った他は)比較的順調だったのですが、7~10年目頃から稲の倒伏が目立つようになりました。紀伊半島の東側に位置する非常に風当たりの強い地域であり、毎年のように台風が直撃しているので台風のせいで倒れていると思っていましたが、一昨年の2020年は台風が少なかったにもかかわらず倒伏がひどかったので、倒伏の根本的な原因は台風ではなく稲の育ち方にあることに気づきました。

 

 倒れた稲を観察すると、根のはりが浅く根元からグラグラしており、茎も弱く折れやすくなっていました。葉や茎に変色や斑点が見られ、病気になっていることにも気づきました。

病名は定かではないが、ごま葉枯病、またはいもち病か?
病名は定かではないが、ごま葉枯病、またはいもち病か?

【稲の病気と倒伏の原因として、考えられること】

 もともと痩せた土地なので地力を補うためと、水もちを良くするために、毎年、畦や周囲の草を刈って、田植え前に田んぼに振り撒いてきました。そうすると田植え後の勢いがついて順調に分けつが進みますし、草が朽ちて積み重なることによって、年々、水も溜まりやすくなってきました。水を漏れにくくすることで養分も保ちやすくなるとも考え、効果があるという実感もあったので、数年に渡って大量の草を田んぼに投入してきました。

 

 また、裏作には小麦を全面ばら撒きで育てていますが、麦の種降ろし後も周囲の草を多めに投入しています。かける草が少ないと鳥に種を食べられてしまうので、防鳥のためです。多めに草をかけるだけで鳥の被害は防げています。また、脱穀後の稲わらと麦わらも、もちろん田んぼに振り撒いています。

 

 様子を見ながら投入する草の量を減らしていかないと、そのうち養分過多になって問題を招くかもしれないという認識はあったのですが、田んぼの草の様子や、稲の分けつの少なさや、麦の姿等から、まだ大丈夫だと判断していました。稲の病気と倒伏がひどくなったことで、ようやく養分過多に陥っているのかもしれないと思い至りました。

 

 また、水が溜まりやすくなってきたこともあり、投入した草が水の中で朽ちていく過程で出る高濃度のものによって、作物に負担をかけてしまったと感じています。同じ草でも、水を溜める時期に投入することで、より問題を招きやすいのではないかと思いました。

【その後の経過】

 昨年(2021年)は、田植え前に振り撒く草の量を半分程度に減らしたところ、倒伏と病気は半減しました。このことからも、投入し続けてきた大量の草が、稲の病気と倒伏の大きな原因であったと考えられます。

 昨年、2021年11月14~17日の稲刈り前の写真です。

一番倒伏が多かった畝
一番倒伏が多かった畝
比較的倒伏が少なかった畝
比較的倒伏が少なかった畝
葉の斑点も、前年より少なかった
葉の斑点も、前年より少なかった
緑米は倒れにくい
緑米は倒れにくい

【今後について】

 昨年2021年の麦蒔きの後は、水を溜めていない時期なので問題を招きにくいと考え、防鳥のために草を振り撒きました。今年(2022年)の田植え前には草を投入するのは、やめようと思っています。

 

 稲作の経験が豊富な方に、昨年(2021年)の稲刈り前の田んぼを実際に見ていただいたところ、「分けつが少ない場所でも、稲の葉色は濃いし、稲刈り時期なのにまだ新しい穂が出ている様子も見える。これは養分は足りているということ。分けつが少ないなら株間を狭くすれば良いのでは?」と言われました。

 

 私はこれまで、稲の分けつが少なめな場合は養分が不足気味と捉えがちでしたが、もともとの土質のことや、水温が低めであることや、田植え時期の遅れ等も考慮に入れないといけないし、もっとよく観察し経験も積んで、田んぼの状態を正しく理解できるようになりたいと思いました。

 

 耕さない自然農では年数の積み重ねで田畑の状態が変化していくため、その都度見極め、必要なことをして余計なことはしないように、常に自分が問われます。招いてしまったこの問題を乗り越え、最後まで倒れずにしっかり立っている健康で美しいお米を育て続けられるよう、成長したいと思っています。

(2022/1/24 三重県 佐藤美佳子さん投稿)

上記の経験談に対する川口由一さんからの投稿文:

 養分過多、特に窒素過多による結果だと思えます。植物のいのち、農作物のいのちは、自分のいのちに応じて健康を損ねないようには対応できなくて、有るがまま、与えられるがまま、在るがままの状態で吸収してゆきます。ですから農夫が、最善に最適に健全に育ちゆき夫々のいのちが全うできるように手を貸してあげねばなりません。すでに田畑の状態は肥沃なのか、あるいは痩せ地の状態なのか。痩せ地を肥沃地に改善する為に肥料を作って、化学肥料はもちろんのこと、有機物の堆肥、堆厩肥、あるいは微生物、酵素、EM菌等々の何らかの肥料となるものを投入しなくとも、田畑の畦道、沼地や山や森の落ち葉や草々を投入するだけでも、投入量が多過ぎて養分過多や偏りの問題を招くことになります。そのことによって不健康、軟弱、成長速度の異変が生じることになります。また、投入する植物の生長程度によって、あるいは植物の種類によっても問題を招くことになります。

 

 基本的な投入量は、草を敵にしないで栽培する田畑で生死に巡る、植物と共に生き死にしている小動物の排泄物と死体であって、他から持ち込んで肥沃化する場合は急ぎ過ぎて多過ぎないことが大切です。また、持ち込む場合は夫々の草々か、一生を全うしたものが大切です。芽を出し、育ち、枝葉を育て、花を咲かせ、実を結び、我が子である種を育てきった時期のものが最善です。育ち盛りで我が身体をつくっている時は、草々、植物達は未熟で完全ないのちでなく、特に窒素過多で夫々のいのちに応じての無機質は未だ作られていません。色も味も香りも作られていません。強さも硬さも柔軟さも養いきっていません。夫々の与えられた寿命の期間を生ききって、全きいのちに育ちきります。お米、麦、小麦や諸々の雑穀類はしかりです。

植物には、多年草、宿根草、一年草等々、色々ですが、一年草は半年の寿命で冬の草と夏の草があって、冬草は夏の初め、夏草は冬の初めに一生を全うして、完全に育ちつくしたいのちは死んでいって大地に倒れふせて、やがて微生物のいのちの生きる営みによって朽ちてゆき、次のいのちの糧となり、新たないのちを生かすことになります。多年草、宿根草も、つくった身体は一年きざみでつくり変えますので、つくりきった時期のもの、常緑樹も一年きざみでつくり変えますので、全うした枝葉を田畑に巡らせることを大切にします。我が体を備えてゆく成長過程のいのちも多くありますので、未だ育ちきっていない成長途上のものは、できる限り投入を避けます。

 

 また大切な視点ですが、水田においては水との関係で死体の朽ちてゆく速度が異なりますので、水田における水への配慮が大切になります。水を深水になって死体が水につかり切って数日経過すると、急に朽ちてゆき、養分過多となって稲の根を損ねる、茎を損ねる、軟弱にしてしまう。病虫害を招くことになる。ひどくなると生育への障害となって成長が止まる。さらにひどくなると稲の苗は腐って死んでしまうことになります。ですから、水を入れる時期と期間、あるいは入れない時期と期間、浅くする加減等々の配慮をする。あるいは水を無くして土にも酸素が入ってゆき、根の成長発達を健全であるようにいたして、全体の強さ逞しさ、稲本来の生命力を発揮して一生を全うするように心配りをします。

 

 写真からは軟弱ゆえの倒伏、養分過多、特に窒素過多ゆえの病気で、イモチ病かモンガレ病が考えられます。また、山間地の冷たい水ゆえに健康を損ねられての病原菌の発生とも考えられます。水田の周囲を一回りしてから、水が少しでも温まってから水田内に水が入るように等々の配慮をする必要があるかも知れませんが、何よりも養分過多による病気と思えます。イモチ病は、生長の初期の葉イモチ、やがて中期の穂首イモチ、後期の穂イモチと、状態によって全時期に渡っておかされますので、注意が必要です。

 

 イモチ病菌は、焦げ茶色の点々状の斑点で変色をきたします。モンガレ病は、茎の下半身の部分がカビが生じた様に約5~10cm大におかされて後半の成長を損ねられます。病原菌は越冬するので、おかされた稲わらは冬期に燃やすようにと指導者は説き示される場合が多いですが、次年後に持ち越されて病気が発生するのではなくて、新たな年の環境と育ち方、育ちゆく生命力の問題ですので、枝葉の解決法にとらわれず根本の解決に取り組むことが大切です。

 

 倒伏の問題ですが、生育期間の長い晩生種は稲の姿は長く高くなるので、その可能性は多くなります。アケボノ、東海旭等は晩生種ですので倒れやすいですが、しかし根、茎、株が健全ならば強い風が吹いても倒れることなく傾くだけで数日後に真っすぐ立ってくることも生じます。生育期間の短い早生種は、姿は低いゆえに倒れにくいことになります。緑米は晩生種でモチ米ですが倒れていないのは、古代米で品種改良がなされていないゆえの強さとも考えられます。特に高くなることなく、根の張り、茎株の強健さ、分けつ逞しさを備えており、生育期間が長いだけ多くの実りにつながり、生命力も味も豊かであると思えます。この晩生種は、夏の期間の短い北国や高い山間地には向きませんので、こうした地方は生育期間の短い早生種を選ばざるを得なくなります。

(2022/2/18 奈良県 川口由一さん投稿)

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